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福岡高等裁判所 昭和60年(ネ)616号 判決

控訴人

中村豊

控訴人

片山明吉

控訴人

植田亘一

右三名訴訟代理人弁護士

横山茂樹

熊谷悟郎

塩塚節夫

中原重紀

石井精二

岡村親宣

山田裕祥

披控訴人

三菱重工業株式会社

右代表者代表取締役

相川賢太郎

右訴訟代理人弁護士

古賀野茂見

木村憲正

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人と控訴人片山明吉、控訴人植田亘一との間で、同控訴人らが昭和五四年八月二七日付け出勤停止処分の付着しない労働契約上の権利を有することを確認する。

3  被控訴人は、控訴人中村豊に対し金四万三八一〇円、控訴人片山明吉に対し金二万八二七〇円及びこれらに対する昭和五五年一月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  3につき仮執行宣言。

二  被控訴人

主文同旨の判決。

第二  当事者の主張は、次のとおり改め、加えるほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一四枚目裏五行目の「五日」(本誌四六〇号〈以下同じ〉42頁3段25行目)を「一四日」と改める。

2  同一七枚目表八行目の「しかも」(43頁2段24行目)の前に「また、仮に使用者が対処不能な事項を目的とするストライキは違法であるとの見解をとったとしても、後記四の4の(四)のとおり、被控訴人は、政府に働きかけて、本件原子力船「むつ」入港問題等を解決するのも不可能ではない立場にあったのであるから、本件ストライキは違法ではない。」を加える。

3  同四三枚目表一〇行目の「処分である。」(51頁1段5行目)の次に「特に被控訴人が昭和五一年以来の衆議院議員選挙時における第二組合委員の大量離席については、就業規則違反行為として問責しないで、僅か三〇分の職場離席にすぎない本件ストについては懲戒処分の対象としたことを考慮すると、本件処分が長船分会の組織の壊滅を目的とした不当労働行為であることは明らかである。」を加える。

第三  証拠関係は、原審並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所は、控訴人らの本訴請求は、失当として棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり改め、加削するほか、原判決理由説示(原判決二枚目表五行目〈39頁1段31行目〉から同一一枚目裏一二行目〈42頁1段20行目〉まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏二行目の「証人富永勝彦の証言及び原告中村豊本人尋問の結果」(39頁2段12行目の(証拠略))を「原審証人富永勝彦、当審証人笹屋欣司、同川原隆の各証言、原審及び当審における控訴人中村豊、当審における控訴人植田亘一、同片山明吉(第一回)各本人尋問の結果」と、同三枚目表七行目冒頭(39頁3段8行目)から一二行目末尾(39頁3段16行目)までを次のとおり改める。

「(三) 本件政治ストライキ実行に至る経緯は次のとおりである。

控訴人中村は、長船分会の執行委員長として同分会を代表し、業務を統括する地位に、控訴人片山は、同分会副委員長、控訴人植田は、同分会書記長として執行委員長を補佐する地位にあったものであり、さらにスト権確立後は控訴人中村は、闘争委員長として闘争委員会を代表し、業務を統括する地位に、控訴人片山、同植田は、副闘争委員長として闘争委員長を補佐し、代理する地位にあったところ、長崎県労働組合評議会(以下「県評」という。)では、昭和五三年七月二七日ないし二九日に定期大会を開催し、既に昭和五二年九月決定した最低二時間のストライキを実施する方針を再確認するとともに、そのための体制を確立する方針を定め、その一環として昭和五三年八月長崎地区労働組合会議(以下「地区労」という。)執行委員会が、同年九月二〇日県評評議委員会が、同年一〇月五日県評代表者会議が相次いで開催された。控訴人中村は、右の県評の各会議に、控訴人植田は、右地区労の執行委員会に出席したのであるが、右方針が固まっていくのを受けて、控訴人片山と共に同年九月一四日長船分会の執行委員会を開催し、県評からオルグの派遣を要請して同分会の執行委員に県評の方針をよく理解させるよう努め、次いで同年一〇月四日同分会執行委員会を開催し、ストライキの目的は「反むつ」一本とし、三〇分の退場ストとするなど同分会独自の方針を確認し、同月五日同分会委員会を開催して右方針及び同月一四日スト権確立の投票を行うことを決議するに至らしめ、これらを分会員に周知徹底させる方法をとり、右決議に基づき同日投票の結果スト権を確立し、前記(一)の指令を発するに至ったものである。なお、参加の態様は異なるが、県評傘下の約一八〇の組合中、ストライキに参加したのは約三〇の組合であった。以下のとおり、控訴人らは、率先して本件政治ストライキを企画、指導ないし補佐し、控訴人中村、同片山は自らも職場を離脱したものである。」

2  同四枚目裏三行目の「同第三号証、」(39頁4段20行目の(証拠略))を削除し、同四行目の「五号証、」(39頁4段20行目の(証拠略))の次に「弁論の全趣旨によって真正に成立したことが認められる同第三号証、」を加える。

3  同六枚目裏五行目末尾(40頁3段6行目)の次に「控訴人らは、被控訴人が原子力船「むつ」の建造過程で原子炉の製作に関与したこと、被控訴人の造船業界に占める重要な地位上、政府等に働きかけて解決することも不可能ではないのであるから、被控訴人は原子力船「むつ」の入港、修理問題について対処可能というべきであり、被控訴人の見解をとっても、本件ストライキは対処不能な事項を目的とするものではないから正当であるとも主張するが、本件ストライキが「むつ」入港及びそれをめぐる政府・長崎県・佐世保市の方針決定並びに施策等に抗議する目的であったことは争いがないところ、もともと右のような事項は控訴人らの労働条件とは直接関係しない事項であり、被控訴人に対し、これを対象に団体交渉を求めることはできないのであるから、被控訴人に何らかの影響力の行使を求めるのも論外であって、控訴人らの右主張は採用できない。」を加える。

4  同八行目冒頭(40頁3段11行目)から同七枚目裏八行目末尾(40頁4段18行目)までを次のとおり改める。

「(一) 控訴人らは、長船分会はかねて本件ストライキについて被控訴人会社内で公然と宣伝し、かつ実施に当たっては事前に通告したので、本件ストライキは整然と行われ、職制等とのトラブル等混乱もなく、また本件ストライキに参加したのは被控訴人長崎造船所の約一万二〇〇〇名の社員のうち長船分会の二四三名であり、ストライキの時間も三〇分であるから、作業遂行上の損失はなきに等しい状態であった旨主張するが、仮にストライキの開始に当たっての混乱がなかったとしても、二四三名もの被控訴人の社員が被控訴人の指揮下に入らなかったこと自体が職場秩序を乱したことに変わりはなく、避控訴人において余程用意周到に事前の対策を立てていたとか、予定の作業が全くなかったとかの特別な事情がない限り、ストライキの時間と参加人員に応じて相当の作業遂行上の損失を生じたことも推認されるというべきである。本件全証拠によっても、被控訴人が前記二2で認定の通告を受けるまでは本件ストライキの実施の日時、態様等を正確に予知していたことを認めるに足りる証拠はなく、原審証人細田隆司の証言によると、被控訴人の職場では一週間毎に各職場の仕事量と要員の配置を決め、最終的には前日の夕方までに各職場の要員配置の調整をしておく必要があり、当日になってストライキが実施されることが知らされても、要員の補充ないし調整は容易ではなかったことが認められるところ、被控訴人に正式に通告があったのは前記のとおりスト開始約一〇分前であったのであるから、被控訴人において十分にその対策を講じる余裕がなく、相当の作業遂行上の損失があったと認めるほかはない。(人証略)によると、本件ストライキ参加者の一部一〇数名についてはそれほどの作業遂行上の損失が生じなかったことが認められるが、到底全体としての作業遂行上の損失がなきに等しいといえる状況ではなく、右主張は採用できない。」

同九行目の「(三)」(40頁4段19行目)を「(二)」と、同八枚目表五行目の「(四)」(41頁1段2行目)を「(三)」と、同九枚目表一二行目の「(五)」(41頁2段12行目)を「(四)」と改め、同七枚目裏一〇行目末尾の「こ」(40頁4段22行目の、「これは」の「こ」)から同末行の「そして、」(40頁4段25行目)までを削除し、同八枚目表一行目の「影響」(40頁4段27行目)の次に「、被控訴人の事業所の一つである後記広島精機製作所での処分例」を加え、同八枚目裏九行目の「及び」(41頁1段20行目の(証拠略))を「原審における控訴人中村豊本人尋問の結果によって真正に成立したことが認められる甲第八号証及び同尋問の結果並びに」と改め、同九枚目表七行目の「対処していたこと、」(41頁2段6行目)の次に「被控訴人は、本件処分に当たっては、前記広島精機製作所において、全日本造船機械労働組合三菱重工支部広島分会が二時間にわたって行った政治ストについて、分会委員長につき出勤停止五日、書記長につき同三日の懲戒処分にした事例を参考としたこと、控訴人らにおいても、本件政治ストライキのように政治的要求を抱合わせにしない形でストライキをした場合、処分をうける可能性が強いことを予期していたこと、」を加え、同一〇行目から同一一行目にかけての「原告らの主張はその前提を欠いている。」(41頁2段10~11行目)を「本件懲戒処分が過去の事例の対応との比較において均衡を失していることはなく、控訴人らの主張は採用できない。」と改める。

5  同一〇枚目裏三行目の「使用者にとって対処不可能な事項」(41頁3段28~29行目)を「労働条件と直接関係しない事項」と改める。

6  同枚目裏一〇行目冒頭(41頁4段7行目)から同一一枚目表三行目末尾(41頁4段17行目)までを次のとおり改める。

「しかしながら、争議行為における個人の行為が債務不履行責任を免責されるなど、個別的労働関係の規制の対象から除外されるのは、争議行為が全体として正当な場合のみであって、これが違法な場合は個人の行為責任は免責されることなく、個別的労働関係の規制の対象とされるのであって、前記認定のとおり被控訴人は、控訴人らが違法な本件政治ストライキを指揮ないし補佐し、あるいは自らも職場離脱した行為について前記就業規則を適用し、懲戒処分に付したのであるから、控訴人ら主張は採用できない。」

7  同一一枚目表六行目の「するが」(41頁4段21行目)から同枚目裏五行目末尾(42頁1段9行目)までを次のとおり改める。

「するので、判断するに、成立に争いのない甲第一三三号証、当審における控訴人植田亘一本人尋問によって真正に成立したことが認められる甲第五一、五二号証、第一二七号証、当審における控訴人片山明吉本人尋問によって真正に成立したことが認められる第一三八、一三九号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したことが認められる甲第一四〇ないし第一四四号証、原審における控訴人中村豊、当審における控訴人片山明吉、同植田亘一各本人尋問の結果によると、長船分会は、被控訴人が昭和五一年一一月、昭和五七年一二月、さらに平成二年二月等にも、右各年施行の衆議院議員の選挙に際し、重工労組の組合委員が選挙運動のため正規の手続によらず大量に職場を離席したり、被控訴人会社施設を利用したりしているのを黙認しているとして、被控訴人との間に数回にわたって被控訴人の見解を求める団体交渉を行ったところ、被控訴人は、正規の手続によらない離席が大量に行われているとの指摘については、これを否定し、一部見逃す結果になっている事例のある可能性もあるが、被控訴人の意図するところではない旨、施設の利用については、構内で無断で集会を開いた事例があったので、しかるべき措置をとった旨の回答をしたことは認められるが、控訴人ら主張の正規の手続によらない大量離席の事実についてはこれを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく、右認定事実のみでは、重工労組に対し、不当労働行為に当たる有利な取扱いをしているとは解されないところ、本件についても被控訴人が長船分会員であることの故に本件懲戒処分をしたとは認めることができず、他に異なる控訴人主張の不当労働行為を認めるに足りる証拠はない。そして、前記のとおり、被控訴人は、長船分会が被控訴人においてかねて警告し、本件ストライキ通告直後にもその中止を申し入れていたにも拘わらず、本件政治ストライキを実行したこと、殊に控訴人らはこれを指導ないし補佐し、自らも実行したことに対して本件懲戒処分をしたのであって、少なくとも被控訴人が長船分会の弱体化を図ろうという意図のもとに本件懲戒処分をしたとは認めることができない。したがって、被控訴人らの右主張も採用できない。」

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鎌田泰輝 裁判官 川畑耕平 裁判官 簑田孝行)

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